■第1回 3D(立体視)には液晶が有利!?

 2010年、テレビは空前の3D(立体視)ブームを迎えています。

 既に発表した各社が「うちの方式がベスト」と主張を展開しており、なかなか判断がつきにくいところです。

 AQUOS Quattron Watch第一回のテーマとして、この「立体視と液晶」を取り上げてみようと思います。

●立体視の品質を左右するキーポイントとは?

 4月12日、シャープは立体視対応液晶パネルの技術発表を行いました。

 この中で、小型サイズから中型サイズまでは裸眼立体視方式を推奨し、大型サイズでは眼鏡立体視方式を推進していく、というメッセージが送り出されました。

   
「液晶こそが立体視のベストソリューションである」シャープの代表取締役副社長執行役員、松本雅史氏。
 
スマートフォン、デジタルカメラ、電子ブックなどの3インチ~10インチ前後のサイズまでは、シャープは視差バリア式の裸眼立体視を推進する。

 いわゆる立体視テレビとしては、シャープも他社と同じ、眼鏡立体視方式を採用したと言うことです。眼鏡立体視方式にはパッシブ型偏光方式とアクティブ型フレームシーケンシャル方式がありますが、これについてもシャープは他社と同じ、後者アクティブ型フレームシーケンシャル方式を採用するとしました。直視型ディスプレイのパッシブ型偏光方式ではフルHD解像度での立体視が困難であるため、シャープもフルHD立体視を重視した…ということなのでしょう。

 いずれにせよ、立体視の覇権争いは正面真っ向からの対決ということになりました。

   
立体視方式の色々
 

 この全社が採用したアクティブ型フレームシーケンシャル方式の立体視の品質において、キーポイントとなるのはどこにあるかと言いますと「明るさ」と「クロストークの少なさ」にあると筆者は考えています。

 この2点において、シャープはどうも優位なようなのです。

 順序立てて解説いたしましょう。

●立体視ではテレビ表示面の明るさの18%しか目に届かない

 アクティブ型フレームシーケンシャル方式では、テレビから左右の目のそれぞれに向けた映像を交互に表示します。眼鏡側は、左目用の映像が表示されているときにだけ左目側のシャッターだけを開き、右目用の映像が表示されているときにだけ右目側のシャッターだけを開きます。これを交互に高速に繰り返すことで、左目用の映像は左目だけに届き、右目用の映像は右目にだけ届くため、人間は立体像を知覚することになります。
ここまでは「そんなこと、知ってるよ」という人も多いことでしょう。

 しかし、この仕組みには、普段、テレビを直視して見ているのとは状況がだいぶ異なっていることに気がついている人は少ないんじゃないでしょうか。

 この液晶シャッター付きのアクティブ型立体視眼鏡は必ず片方が閉じています。普段、人間は両目で光を捉えていますが、この立体視眼鏡をかけた状態では常に片目からしか光が届いていないことになります。言い換えると単位時間あたり、テレビ側の放つ映像光の半分しか目に届かないことになるのです。

 特殊な状況はこれだけではありません。

 液晶シャッター付きのアクティブ型立体視眼鏡の入口と出口には偏光方向が異なる(互いに直交する)偏光板が仕込まれています。これは液晶テレビなどの液晶パネルでもそうなのですが、位相を整えた光を液晶分子に導くために必要な仕組みです。この仕組みの作用で、やってきた光の半分は偏光板を通れないのです。

 つまり、テレビ画面から発せられた光のうち、

  (立体視眼鏡の偏光板での透過率50%)×(左右交互に見せることによるロス50%)=25%

となり、アクティブ型フレームシーケンシャル方式の立体視では理論値でテレビ表示面の25%の明るさになってしまうのです。

 

 シャープは、この他、立体視眼鏡に入射した光が立体視眼鏡の表面上で反射してしまうロスや、液晶シャッター部の液晶分子と衝突した際のロスを考えると、実際に目に到達する光量はテレビ表示面の光の約18%にまで落ち込むであろう、とまで予測しています。

 テレビ表示面の理論値25%、実効値18%の明るさになってしまう立体視の仕組み。それがどのくらい暗いものなのかは、テレビ売り場で立体視眼鏡を掛けて見ればわかると思います。だいぶ視界が暗くなりますよね。

 今は、映像がただ立体に見えればそれで喜ばれていますが、いずれ、その画質について興味が移ってくるはずです。映像鑑賞という見地に立てば、暗すぎる映像に「高画質」の評価は与えられませんよね。

 逆に言えば、立体視対応テレビは、2Dで見ていたときよりも明るくなければならないということです。

 さて、フレームシーケンシャル方式の立体視では前述してきたように、左右のそれぞれの目に、反対側の目用の映像を見せないことが重要になってきます。現実世界でも、左目に右目からの視界が映り込んでいたら、見にくくてしようがないですよね。こうした、反対側の目用の映像が映り込んできてしまう現象を「クロストーク」と呼びます。

 立体映像の画質を語る上では、このクロストークが少なければ少ないほど良いとされます。

 そして、このクロストークを回避するには、交互に左右の目用の映像を表示している関係上、反対側の目用の映像を瞬間的に消すことが重要になってきます。

 つまり、テレビの映像の表示応答速度が速いことが重要になってくるのです。

   
実際に目に到達する光量はテレビ表示面の光の約18%にまで落ち込む。立体視が暗くなる理由はこれだ!
 
クロストークは立体映像におけるノイズといってもよい。高画質な立体映像の実現にはクロストークを低減させることが欠かせない

第2回では、なぜ液晶のほうが立体視に向いているか説明します。

(トライゼット 西川善司)