より幅広いユーザー層にスマートフォンが拡大する中、その環境をもっとフルに、大画面で活用したいというユーザーから注目を集めているのがタブレットだ。なかでもポータビリティに優れた7インチクラスのタブレットに期待する声は多い。NTTドコモから発売のシャープ製タブレット「AQUOS PAD SH-08E」は、約7.0インチの新世代ディスプレイ「IGZO」を搭載し、エンターテインメントからビジネスまで、ユーザーの幅広いニーズに応えるポテンシャルを持つ製品だ。ひと足早く実機を試すことができたので、早速、その仕上がりをチェックしてみよう。
私たちにとって、もっとも身近なデジタルツールとして定着しつつあるスマートフォン。ほんの数年前まで誰もが当たり前のように使っていたケータイと違い、アプリで自由にカスタマイズしたり、数多くのネットサービスと連携できるなど、多彩な活用が可能となった。ケータイ時代から受け継がれてきたコミュニケーションは、通話やメールといった基本的なものに加え、FacebookやTwitterといったSNSを利用したコミュニケーションに拡大し、最近ではLINEのように、コミュニケーションを軸にしながら、エンターテインメントの要素も多く取り込んだサービスが広く利用されるようになってきた。
また、スマートフォンで利用されるサービスにも少しずつ変化が起きてきている。たとえば、ケータイの時代はケータイで直接着うたなどをダウンロードするスタイルが一般的だったのに対し、スマートフォンでは音楽配信サービスからのダウンロードに加え、パソコンで取り込んだ音楽や、最近では定額で聞き放題になる音楽配信サービスが人気を集めている。映像でもhuluをはじめ、定額でいつでも映画や海外ドラマ、音楽ビデオなどが楽しめるサービスがスタートし、NTTドコモの「dビデオ」のように、携帯電話事業者が映像配信サービスを提供するケースも増えている。新聞や書籍、コミックといった紙をベースにしてきたメディアの電子化も進み、コンテンツの販売も急速に伸びてきている。
こうしたスマートフォン向けに提供される数々の新サービスは、スマートフォンだけでなく、より大きな画面のタブレットでも利用することができる。なかでも映像系のコンテンツの閲覧は明らかにタブレットに優位性がある。タブレットについては、スマートフォンの本格的な普及が始まった頃から各社のラインアップに加えられていたが、パソコンとの置き換えを狙った「ポストPC」的な扱いのモデルが多く、ディスプレイサイズが約10インチ前後、重量が500~700gのモデルが中心だった。
これに対し、昨年あたりから急速に注目を集めているのがポータビリティに優れた7インチクラスのタブレットだ。スマートフォンよりも大きな画面で操作がしやすく、重量も300g程度に抑えられているため、スマートフォンやケータイとの『2台持ち』にも適したジャンルとして、幅広い層のユーザーから期待されている。
今回、NTTドコモから発売されたシャープ製タブレット「AQUOS PAD SH-08E」は、現在もっとも注目度の高い7インチクラスのタブレットだが、AQUOS PHONE ZETA SH-06Eなどでも高い評価を得ている「IGZO液晶ディスプレイ」を搭載することにより、これまでの同クラスのタブレットとは一線を画した快適なユーザビリティを実現している。IGZO液晶ディスプレイによる高い省電力性能はもちろん、フルセグチューナーによる地上デジタル放送、防水防じん対応、自由な手書きスタイルを可能にするペン機能など、多彩な機能を搭載し、エンターテインメントからビジネス、プライベートに至るまで、幅広いシチュエーションにおいて、フルに活用できるタブレットとして仕上げられている。
アプリはもちろん、スマートフォン向けに提供されているコンテンツやサービスも同じように利用することができるタブレット。スマートフォンよりも画面サイズが大きいため、視認性に優れているだけでなく、タッチ操作もしやすい。映像はもちろん、Webページや電子書籍など、文字を表示するコンテンツについても快適に見ることができる。ただし、画面サイズが大きいということは、その分、バックライトなども明るくしなければならないなど、電力消費が増える傾向にあり、ボディサイズを活かした大容量バッテリーを搭載していながら、意外にバッテリーライフがあまり長くないという製品も少なくない。
今回のAQUOS PAD SH-08Eには、AQUOS PHONE ZETA SH-06Eをはじめ、各社向けのシャープ製スマートフォンのフラッグシップモデルなどに搭載され、各方面で高い評価を得ている「IGZO液晶ディスプレイ」を採用し、優れた省電力性能を活かした快適な利用環境を整えている。スペックとしてはフルHD(1920×1080ドット)を上回るWUXGA(1920×1200ドット)表示を可能にしている。
IGZO液晶ディスプレイの「IGZO」についてはすでにAQUOS PHONE ZETA SH-06Eなどのレビューでも解説してきたが、もう一度、おさらいをしておこう。IGZOは「インジウム(In)」「ガリウム(Ga)」「亜鉛(Zn)」「酸素(O)」で構成される酸化化合物で、「IGZO液晶ディスプレイ」はこれを液晶ディスプレイのTFT(薄膜トランジスタ)などに活かして作られた液晶パネルだ。一般的に、TFT液晶パネルは素子が格子状に仕切られており、それぞれの枠には薄膜トランジスタが付けられている。この薄膜トランジスタに電気を通すことで枠内の液晶が変化し、バックライトからの光を通したり、遮ったりすることで、画面の文字やグラフィックを表示させている。薄膜トランジスタは液晶を変化させるという重要な役割を担っているが、液晶パネルの素子の枠内に付けられているものであるため、実は自らがバックライトからの光を遮ってしまっている。
これに対し、IGZOは多くの液晶パネルに採用されているアモルファスシリコンに比べ、電子移動度が高いため、液晶パネルの素子の枠内に付けるトランジスタを小型化できるうえ、格子の枠の細線化もできるため、バックライトを遮るものを大幅に減らすことができる。その結果、限られた対角サイズにおいても高精細化を実現しやすく、従来よりも少ないバックライトの光量で液晶パネルを明るく表示させることができる。つまり、従来のアモルファスシリコンによる液晶パネルに比べ、IGZO液晶ディスプレイは光の透過率が高いため、一定の明るさを実現するために必要なバックライトの光量が少なく、結果的に消費電力を抑えることができるわけだ。
これらのアドバンテージはIGZO液晶ディスプレイに共通してきたことだが、実はタブレットのような画面サイズが大きな端末、より高解像度のディスプレイでは、その効果が一段と大きくなる傾向にある。たとえば、スマートフォンの4.5~5インチといった画面サイズとタブレットの7インチ前後という画面サイズで考えると、当然のことながら、画面サイズが大きい方が必要とされるバックライトの光量が大きくなるため、少ないバックライトでも一定の明るさが得られるIGZO液晶ディスプレイは有利というわけだ。高解像度液晶についても同じことが言え、解像度が高くなるということは、液晶パネルを構成する枠が増えるわけで、その分、薄膜トランジスタも枠の配線も増え、全体的な消費電力も高くなる傾向にあるが、これもIGZO液晶ディスプレイはアドバンテージを活かせるわけだ。
そして、IGZO液晶ディスプレイが他のディスプレイと比較して、もうひとつ大きなアドバンテージを持っているといわれるのが「液晶アイドリングストップ」と呼ばれる省電力機能だ。一般的にアモルファスシリコンを採用した液晶パネルでは、静止画を表示しているときでも毎秒60回の書き換え動作が発生するのに対し、IGZO液晶ディスプレイでは1秒に1回のみの書き換えで済むため、エコカーのアイドリングストップと同じように、静止画表示中の動作を抑え、消費電力を抑えることができる。これに加え、新たに開発した映像リアリティエンジン「FEEL artist」により、表示に合わせた画像伝送の制御をすることで、画面を表示しているときの電池消費を抑え、ロングライフを実現しているわけだ。
ちなみに、今回のAQUOS PAD SH-08Eに搭載されている約7.0インチのIGZO液晶ディスプレイは、単に消費電力が抑えられているだけでなく、周囲の明るさや照明の種類、時間帯などに合わせ、自動的にインテリジェントに画質を調整する「ユースフィットモード」、ディスプレイの色調整により、画面のちらつきを抑え、眼の負担にも配慮した「リラックス閲覧モード」なども搭載することで、美しい映像を快適に視聴できるようにしている。もちろん、シャープ製端末ではおなじみのベールビューも搭載されており、公共交通機関などで利用するときも周囲からののぞき見をブロックすることができる。AQUOS PAD SH-08Eはディスプレイサイズが大きいだけに、こうした機能はユーザーとしても心強い。
フルHDを超える1920×1200ドットのWUXGA表示に対応したディスプレイを搭載するAQUOS PAD SH-08E。この高解像度を活かすことができるのは、インターネットなどで提供される映像コンテンツやWebページ、電子書籍などに限られているわけではない。AQUOS PAD SH-08Eの持つポテンシャルを引き出す機能として、地上デジタル放送が受信できるフルセグ、スマートフォン向けマルチメディア放送のNOTTVに対応する。
現在、国内で販売されているほとんどのスマートフォンやタブレットには、ケータイ時代から受け継いだワンセグが搭載されている。ワンセグは地上デジタル放送で利用する13セグメントの内、1つのセグメントを利用して、モバイル端末向けに地上デジタル放送と基本的に同じ内容の番組を放送しているが、映像が320×240ドット(320×180ドットとも表記)/15fpsであるため、多くのスマートフォンやタブレットでは映像をかなり拡大表示している。シャープでもフレーム補間や超解像などの技術を使い、大画面でもワンセグを楽しめる環境を実現していたが、5インチや7インチといったサイズになってくると、ワンセグという放送そのもののスペック不足が目立つ状況になりつつある。ユーザーからも粗いワンセグより、インターネット経由のHD対応コンテンツの方が楽しめるといった声が聞かれるようになってきた。
そこで、今回のAQUOS PAD SH-08EではWUXGA表示に対応した約7.0インチのディスプレイの性能を活かすため、大画面テレビで楽しんでいるのと同様の地上デジタル放送を受信できるフルセグチューナーを搭載。本体に内蔵された伸縮式のアンテナを使って、地上デジタル放送を視聴することができる。付属の卓上ホルダには家庭用のテレビ用アンテナケーブルと接続するためのアンテナ端子が備えられているため、自宅などでは机の上に置き、プライベートテレビのように使うことができる。さらに、録画にも対応しているため、深夜や早朝の番組を録画しておき、通勤途中などに録画した今日のニュースを見るといった使い方もできる。録画についてはNOTTVも対応しており、リアルタイム視聴とシフトタイム視聴の2つのスタイルで多彩な番組を楽しむことができる。
また、本体はIPX5/7の防水、IP5Xの防じんにも対応しているため、キッチンやテラスなど、水を扱うところや雨の心配があるアウトドアでも安心して使うことができる。もちろん、家庭内のWi-Fi環境を利用したDLNA/DTCP-IPにも対応しているため、液晶テレビ「AQUOS」やレコーダーで録画した番組をWi-Fi経由で、離れた部屋から視聴することも可能だ。しかも重量は288gと軽いうえ、ボディサイズも他の同クラスのタブレットと比較して、ボディ幅が狭く、厚さも1cmを切る9.9mmに抑えられているため、いつでもどこでも気軽に持ち歩くことができ、多彩なコンテンツやサービスを思う存分、活用することが可能だ。
ちなみに、本体には4200mAhの大容量バッテリーが内蔵されており、CPUは米クアルコム製のSnapDragon 600/1.7GHzを搭載する。IGZO液晶ディスプレイの高い省電力性能により、長時間の利用が可能だが、シャープ製スマートフォンではおなじみの「エコ技機能」もサポートされており、エコ技設定で標準モードから技ありモードに切り替えるだけで、実使用時間を約4%も延ばすことができる。
また、タブレットの場合、カメラのスペックがスマートフォンに比べ抑えられる傾向にあるが、AQUOS PAD SH-08Eには約810万画素の裏面照射型CMOSセンサーによるカメラが搭載されており、前面にも約210万画素のフロントカメラを備える。普段のちょっとした出来事の撮影から仕事関係の撮影まで、幅広いシチュエーションで活用することが可能だ。約7.0インチという大画面に写真を表示すると、写真プリントのL判サイズに相当するサイズで表示することになるため、写真を撮って、見ることが一段と楽しくなる印象だ。
この他にもWolfson製音声処理LSIを搭載し、126時間の連続再生を可能にした音楽再生、IEEE802.11a/b/g/n/ac準拠のWi-Fi(無線LAN)、タブレットに表示しているコンテンツを対応テレビなどに出力できるMiracast及びMHL、AQUOSやAQUOSブルーレイとの連携を可能にするスマートファミリンクなど、さまざまなエンターテインメントを存分に楽しむためのスペックが充実している。
フルセグチューナーをはじめ、エンターテインメントに強いAQUOS PAD SH-08Eだが、ビジネスや普段の生活にも役立つ機能も数多く搭載されている。
たとえば、本体上部に格納されたペンを利用したアドバンストペン入力も面白い機能のひとつだ。IGZO液晶ディスプレイとタッチパネルを直接、貼り合わせ、ペン先と画面表示の視差を軽減することにより、「紙に書く」ようなダイレクト感のある手書き入力を可能にしたものだ。しかもスマートフォンよりもひと回り大きいAQUOS PAD SH-08Eの形状を考慮し、画面に手をついた状態でも入力ができるように、タッチセンサーをチューニングしているという。
そして、この手書き入力を思う存分、活用することができる「「書(かく)」ノート」と呼ばれるオリジナルアプリが搭載されている。「書」ノートはメモ、ノート、スケジュールの機能を組み合わせたアプリで、AQUOS PAD SH-08Eに表示しているWebページや地図、画像などに、直接、手書きで何かを書き加えて、保存したり、メモを取ったり、カレンダーのスケジュールにペンで絵を描き加えたりすることができる。まさに、ノート感覚、メモ感覚で手書き入力し、さまざまな情報を記録していくことができるわけだ。こうして保存した「書」ノートの情報は、やはり手書きで検索したり、手書きイメージをメールなどに添付して投稿するといった使い方ができる。パソコンやインターネット、スマートフォンなどを駆使し、仕事もかなりIT化が進んできた今日だが、手書きで伝えた方がわかりやすいこと、簡単に記録できることなどもあり、「書」ノートではそれらをうまく活用できるように作り込まれている。
ところで、他のタブレットを見てもわかるように、一般的にタブレットとスマートフォンではAndroidプラットフォームの基本仕様が共通になっているものの、実はタブレットでは音声通話がサポートされていない機種がほとんどだ。しかし、AQUOS PAD SH-08Eはスマートフォンやケータイに備えられているレシーバー(受話口)こそないものの、音声通話を使うための機能が搭載されており、本体スピーカーとマイクを使ったハンズフリー通話、市販のBluetoothヘッドセットやマイクつきイヤホンなどを使うことで、音声通話を使うこともできる。たとえば、スマートフォンと併用していて、電池残量が気になるときはAQUOS PAD SH-08Eで通話したり、仕事などで長時間の通話が予想されるときは、最初からこちらで発信するといった使い方ができる。画面も大きいため、電話帳は見やすく、ダイヤラーのボタンも大きいため、非常に操作しやすいという印象だ。
わずか数年で一気に国内市場に拡がったスマートフォン。人々のコミュニケーションやビジネスのスタイルを大きく変えることになったが、その一方で、音楽やミュージックビデオが楽しめる音楽配信サービス、映画やドラマなどが楽しめる映像配信サービス、新聞や書籍が楽しめる電子書籍サービスなど、さまざまなコンテンツを楽しめる環境が整いつつある。これらのサービスを利用することを考えたとき、ファーストチョイスはスマートフォンかもしれないが、実はコミュニケーションやアプリなどはスマートフォンに任せ、エンターテインメントやビジネスはタブレットを活用するという新しいモバイルスタイルも非常に有効な手段だ。
そんなモバイルの可能性を大きく拡げられるタブレットの大本命と言えるのが今回紹介した「AQUOS PAD SH-08E」だ。モバイル端末に搭載されるものとしては、最高スペックに位置付けられるWUXGA表示が可能な約7.0インチのIGZO液晶ディスプレイを採用し、従来のタブレットとは一線を画す優れた省電力性能、フルセグを楽しめるエンターテインメント、ペン入力を活かした「書」ノートなど、エンターテインメントからプライベート、ビジネスに至るまで、さまざまなシチュエーションで活用できる環境がしっかりと作り込まれたタブレットとして仕上げられている。新しいモバイルライフの可能性を追求したいユーザーには、ぜひとも体験して欲しい一台と言えるだろう。
1963年神奈川県出身。携帯電話やスマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。主な著書は「できるWindows 8」をはじめ、「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」(2013年5月24日発売)、「できるWindows 8 タッチPC&タブレット編」など、数多く執筆。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。ホームページはこちら。