この約2年ほどの間に、国内市場は完全にケータイからスマートフォンへの移行が進んだ。今や店頭で販売される製品のほとんどがスマートフォンになり、最近ではタブレットという新しい選択肢も加わってきた。ケータイ時代にモバイル機器やサービスを積極的に活用してきた日本のユーザーの特性もあり、数年前には誰も予想しなかったほど、急速に普及した印象だ。
その一方で、スマートフォンへの移行が進む中、さまざまな課題も指摘されてきた。たとえば、初期の頃は「ワンセグ」「おサイフケータイ」「赤外線通信」といった三種の神器とも呼ばれる機能が搭載されていなかったり、高温多湿の気候に加え、雨の日やアウトドアなどで利用するスタイルに応えられる防水や防じん性能がないこと、連続稼働時間が短く、すぐに電池残量がなくなってしまうこと、タッチ操作のレスポンスが良くなく、操作感も機種によって、かなり差があることなどが上げられてきた。こうした課題は年を追うごとに、少しずつ改善され、シャープをはじめとした各メーカーは日本のユーザーのニーズに応えられるスマートフォンを開発し、人気を得ている。
これだけスマートフォンの環境が整ってくると、もはやモバイルのニーズはスマートフォンとタブレットで十分に対応でき、最近では一部で「ケータイは不要ではないか」「フィーチャーフォンはもういらないのでは?」といった声も聞かれるようになってきた。
しかし、そういった見方は必ずしも正しいものではない。実は、スマートフォン全盛の時代だからこそ、フィーチャーフォンには堅実なニーズがあり、ユーザーからも強く求められているのだ。その証拠に2012年夏モデルで、NTTドコモがiモード端末の新機種をラインアップに加えなかったことに対し、ドコモショップをはじめとする販売店や窓口には「もうiモード端末は出さないのか?」「新機種を出して欲しい」という要望が数多く寄せられていたという。
ケータイの新機種を求める理由は、人によってさまざまだが、「安定性や快適な操作感を考えて、今後もケータイを使い続けたい」「仕事の関係上、スマートフォンを持てないため、フィーチャーフォンが必要」といったスマートフォンに乗り換えたくない、あるいはさまざまな制約で乗り換えられないユーザーだけでなく、「スマートフォンと併用したい」「仕事はタブレットで、音声通話はケータイ」「スマートフォンも使うが、プライバシーやセキュリティの大切な音声通話やおサイフケータイは、フィーチャーフォンに任せたい」といった声のように、すでにスマートフォンやタブレットを利用しながら、ケータイのメリットを理解し、『2台持ち』などの形でケータイを活用したいユーザーが増えつつあるのも見逃せない点だ。
今回、NTTドコモから発売された「docomo STYLE series SH-03E」は、まさにこうしたユーザーの期待に応えるモデルだ。ケータイ時代にハイスペックや高機能、使いやすさで高い人気を得てきたSHシリーズのコンセプトをそのまま継承し、スリムで持ちやすく、便利機能を快適に活用できる防水ケータイとして仕上げられている。
docomo STYLE series SH-03E。ボディカラーは、オレンジ、ブラック、ホワイト、ピンクの4色
NTTドコモとシャープとしては、約1年ぶりのiモード端末として発売されたSH-03E。おそらく多くの読者にとっても久しぶりのケータイということになるかもしれないが、実機を見ながら、内容をチェックしてみよう。
まず、ボディはスタンダードな折りたたみデザインを採用する。実際に端末を手に取ると、幅約49mmというスリムなボディが手になじみ、フィット感が非常に心地良い。最近はスマートフォンの大画面化が進み、ほぼ全機種がボディ幅が60mm以上という状況になっており、ケータイのスリムなボディサイズは非常に扱いやすく、かえって新鮮だ。ボディ側面には少し凹みも付けられており、折りたたみのボディを開きやすくしている。
ボディカラーはオレンジ、ブラック、ホワイト、ピンクの4色がラインアップされているが、オレンジのグラデーション、ブラックのヘアライン加工、ホワイトのラメなど、それぞれのボディカラーに特徴がある。ボタンはケータイのSHシリーズで採用されてきたアークリッジキーが採用され、キートップのキーフォントはボディカラーごとに異なるものを採用し、個性を演出している。
ボディは前述の通り、IPX5/IPX7の防水性能、IP5Xの防じん性能を実現しており、雨の中やキッチンなどの水回りでも安心して利用することができる。卓上ホルダも付属しており、外部接続端子のキャップを開閉せずに充電できるため、キャップ部分のパッキンの劣化や損傷を防ぎ、防水防じん性能を維持することができる。ちなみに、防水防じん性能を維持するには、2年に1回は部品の交換(有料)が推奨されている。
トップパネルには約0.9インチの1色有機ELサブディスプレイが搭載されており、その隣に備えられたイルミネーションはボディカラーごとに異なるデザインとなっている。サブディスプレイには日時だけでなく、不在着信などの情報も表示される。ちなみに、端末を閉じた状態でも本体側面のサイドボタンを長押しするだけで、マナーモードに切り替えられる。後述する親子モード・防犯ブザー設定をONにしたときは、防犯ブザーを起動することもできる。
メインディスプレイは480×854ドット表示が可能な約3.0インチのフルワイドVGA液晶を搭載し、ワンセグや撮影した写真、動画コンテンツなどを美しく再現する。ダイヤルボタン右下の[TV]キーを押すことで、屋外などの明るい場所でも一時的に輝度を上げる「ブライトモード」となり、視認性をよくできるなどの工夫もなされている。
背面にはCMOSセンサーによる約500万画素オートフォーカス対応カメラを搭載し、方向キー右上のカメラキーを押すだけで、すぐに起動できる。シーン別撮影やシーン自動認識などの撮影機能を備えるが、最近のスマートフォンのアプリなどでも人気のトンネル効果やぼかし効果を加えられる「トイカメラ」、ミニチュアや魚眼、色鉛筆などの効果が加えられる「エフェクトカメラ」、デコメ絵文字を作成できる「メイクデコカメラ」など、撮影を楽しむ機能も充実している。動画撮影にも対応しており、HDサイズの1280×720ドットの動画も撮影可能だ。
また、ハードウェアのスペックでは、ケータイが主流だった時代にCPUにスポットが当てられることは少なかったが、SH-03EはCPUにルネサスエレクトロニクス製SH-Mobile AG5/1.2GHzが搭載されている。2010年発売のSH-11Cの500MHzをはじめ、数年前のケータイではクロック周波数が1GHzクラスのCPUを搭載することがほとんどなかったことを考えると、かなりハイスペックということになる。RealTime CPUもSH-11Cの500MHzに対して、SH-03Eが624MHz、GPUもSH-11Cの125MHzに対して、200MHz×2と強化されており、ブラウザのスクロールや文字入力のレスポンス、画像の表示など、さまざまな操作がスムーズに動作する。
高速化をすると、消費電力が気になるところだが、スマートフォンでも独自の「エコ技」機能による省電力で高い評価を受けているSHシリーズらしく、バックライトの明るさや画面オフまでの時間などを細かく設定できる「ecoモード」を搭載し、長時間、快適に使える環境を整えている。ちなみに、ecoモードでは時間や電池残量などの条件で自動起動することができ、平日と休日別の設定ができるなど、非常にきめ細かい設定を可能にしている。
「ecoモード」の項目設定メニュー。葉っぱアイコンの数が大きいほど効果が大きくなる
ecoモードを自動起動するための起動条件設定メニュー
タイマー設定メニュー
スマートフォンは非常に多機能である半面、製品によって、使い勝手が違い、ケータイから移行したユーザーは、かなり操作に戸惑う傾向にあり、最近では使いやすさを追求するモデルも増えつつあるが、ケータイであるSH-03Eも一般的なケータイユーザーだけでなく、スマートフォンユーザーのニーズも踏まえ、使いやすさの面において、着実に進化を遂げている。
たとえば、NTTドコモのスマートフォンにはホームアプリとして、NTTドコモ独自の「docomo Palette UI」が搭載されているが、SH-03Eにも同様の画面からさまざまな機能を起動できるようにしている。SH-03Eの待受画面で下方向を2回押すと、SH-03Eで利用できる機能やアプリが並んだ画面が表示されるのだが、ここで[サブメニュー](MENUボタン)ボタンを押し、[新規グループを作成]を選び、登録されている機能やアプリをグループ単位に分けることにより、docomo Palette UIと同じように、よく使う機能やアプリをグループにまとめ、簡単に起動できるように整理できる。
SH-03Eのメニュー画面
docomo Palette UIと同じように、よく使うアプリや機能をグループごとに分類することが可能
通常のメニュー画面については、待受画面から[MENU]キーを押すことで表示でき、アイコンが並ぶマトリクス型のデザインを採用する。きせかえツールを利用すれば、他のテーマのメニュー画面に着せ替えることも可能だ。
また、ケータイで音声通話と並んで利用頻度が高いiモードメールでは、「かんたんデコメ」が搭載されており、慣れていないユーザーでも簡単にデコメールを作成できるほか、「メールチェンジ」を利用することで、本文のフォントを変更したり、デコメアニメを加えたメールを作成することができる。
この他にも電話帳にチェックを入れるだけで、複数の宛先にメールを送信できる「宛先連続選択」、メール本文に書かれた複数の連絡先を電話帳に一括登録できる「番号/アドレス一括登録」など、実用的な機能も充実している。さらに、安全に使うことを考慮し、子どもにはスマートフォンではなく、ケータイを持たせるべきと考える保護者も多いが、ケータイも高機能であるがゆえに、なかなか保護者がコントロールできないといったことが起きる。そこで、SH-03Eでは機能の利用を制限できる親子モードを搭載しており、保護者専用の暗証番号を設定することにより、子どもに使って欲しくない機能の利用を制限することができる。保護者が設定した機能制限を子供は解除する事ができず、管理がしやすくなるというわけだ。具体的には電話の発信やメール送信、メール、ワンセグ、ブラウザ、カメラ、iアプリなどを個別に利用制限することができる。ちなみに、親子モード・防犯ブザー設定をONにしたとき、サイドボタンの長押しで防犯ブザーが鳴動することは前述の通りだが、同時に登録しておいた最大3件までの緊急連絡先に自動で音声通話を発信することもできる。
親子モード設定画面
電話発信/メール送信など、個別に利用制限できる
防犯ブザーを鳴動させるとともに、緊急連絡先に自動で音声通話を発信することもできる
ケータイからスマートフォンへ移行が進んだことで、ケータイにはあまり興味が持たれていないという指摘もあるが、ケータイにはケータイならではの安心感をはじめとしたメリットがあり、ここに来て、スマートフォンとの2台持ちを検討するユーザーも増えつつあるという。そういったユーザーにとって、充実のスペックを搭載しながら、細かい部分の使いやすさにも配慮したSH-03Eは非常に魅力的なケータイと言えるだろう。コンパクトで手になじむフィット感をはじめ、ワンセグやおサイフケータイ、赤外線通信といった定番機能もしっかりとサポートしており、ecoモードによる長時間利用ができるのも魅力的な点だ。2台持ちを検討するユーザーはもちろん、これからもケータイを使いたいというユーザー、これからケータイをはじめるというエントリーユーザーも含め、幅広い人におすすめできるモデルと言えるだろう。
法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。主な著書は「できるWindows 8」をはじめ、「できるポケット docomo AQUOS PHONE sv SH-10D スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」(2012年8月31日発売)、「できるポケット SoftBank AQUOS PHONE 006SH スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」(2011年6月30日発売)などのスマートフォン関連も数多く執筆。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。
■関連情報
□docomo STYLE series SH-03E 製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/product/foma/style/sh03e/
□docomo STYLE series SH-03E 製品情報(シャープ)
http://www.sharp.co.jp/products/sh03e/
□シャープ 携帯電話 NTTドコモラインアップ
http://k-tai.sharp.co.jp/lineup/docomo/
■関連記事
□手に馴染むフォルムに4色のボディカラー「SH-03E」
http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20121011_565015.html