ディスプレイだけを持つ感覚
本体前面にディスプレイを搭載し、スレート状であるスマートフォン。デザインには各製品ともさまざまな工夫を凝らしているが、基本的な構造が似通っているため、なかなか十分な個性を発揮することができていない。さらに、最近ではディスプレイの大型化トレンドが一段と明確になってきたことで、ボディサイズ、なかでもボディ幅が広くなり、大画面と持ちやすさのバランスをいかに取っていくかも重要なテーマのひとつとなっている。
そんな中、昨冬以降、シャープはディスプレイの上部と左右を狭額縁で仕上げた三辺狭額縁のスマートフォンを相次いで発表し、国内市場を驚かせた。『EDGEST』デザインと名付けられたそれらのモデルは、迫力ある大画面を持ちやすいボディサイズで実現し、それまでのスマートフォンとは一線を画した存在感を演出することに成功した。EDGESTデザインを採用したモデルは、SF映画などで描かれる大型ディスプレイの携帯情報端末を彷彿とさせたが、その未来感はいま、早くも我々の手元に届くことになった。
今回、ソフトバンクから発表されたシャープ製スマートフォン「AQUOS CRYSTAL」は、ディスプレイ周囲の額縁を極限までなくす『フレームレス』という構造を採用し、前面パネルのエッジ部に独特のカット処理を加えた『クリスタルディスプレイ』を搭載することで、今までにないユーザーの感動を狙った新しいデザインのモデルだ。約5.0インチのS-CG Silicon液晶ディスプレイは、まさにディスプレイだけを持つようなイメージで仕上げられている。はじめて端末を手にしたとき、思わず、「おぉー」と声を上げてしまうほどのインパクトを持つ。画面のフレームを極限までなくすことを追求したディスプレイは、画面内のデジタルな世界とユーザーが目にするリアルな世界をシームレスに融合させる独特の世界観を演出しており、新しい時代を切り開くエポックメイクなデザインと言えそうだ。
「フレームレスデザイン」で、上部および左右の額縁がほとんど感じられない
そして、AQUOS CRYSTALがもうひとつ注目すべきは、このモデルがソフトバンクと米Sprint、シャープが共同で開発され、米国向けにも同じ製品が提供されるという点だ。ご存知のように、昨年、ソフトバンクは米Sprintをグループ傘下に収め、両社の持つ強みを相互に活かす戦略を練ってきたが、その成果の第1弾が今回のAQUOS CRYSTALということになる。
シャープ製スマートフォンと言えば、国内でもっとも早くからAndroidスマートフォンを手がけ、さまざまなユーザーのニーズに応えながら、着実に磨かれてきたシリーズ。国内向けとほぼ同じモデルが米国向けにも供給されるというのは、日本のユーザーとしても感慨深いものがある。米国では米Sprintだけでなく、プリペイドサービスなどを展開するVirgin mobileやboost mobileにも供給される。すでに米国でも発表され、各国のニュースサイトでも高い注目を集めており、なかでも約5インチという大画面ディスプレイをフレームレスという斬新なデザインで実現したことが高く評価されているようだ。
カラーバリエーションは全4色。フレームの部分もそれぞれ微妙に色合いが異なる
上質なデザインとフレームレス構造
まるでディスプレイだけを持つような感覚を実現したフレームレスデザインのAQUOS CRYSTALだが、全体的にも上質なデザインで美しく仕上げられている。
「CRYSTAL」の名にふさわしい美しいデザイン
まず、フレームレス構造については、新たに開発された狭額縁液晶パネルに、エッジ部をカットした前面パネルを組み合わせることで実現している。このエッジ部をカットした前面パネルが持つ光学レンズ効果を持ち、ディスプレイのフレームを極限までなくすように見せているわけだ。実際にルーペ(拡大鏡)で画面のフチをのぞいてみると、液晶パネル部分で約1mm程度、その外側のボディ部分で約1mm程度しかなく、合計2mm程度しか額縁がないように見える。一般的に狭額縁と言われるスマートフォンでも約4~5mm程度であることを考えると、いかに驚異的な狭額縁で仕上げられているかがよくわかる。
特徴的なエッジ部の加工
フレームレス構造の採用により、AQUOS CRYSTALはボディ幅が約67mmに抑えられており、すっきりとした背面デザインとも相まって、手になじむ持ちやすい形状に仕上げられている。ディスプレイは約5.0インチのHD対応S-CG Silicon液晶が搭載されているが、同じ約5.0インチのディスプレイを搭載したAQUOS PHONE Xx 206SH(2013年6月発売)のボディ幅は約71mmであり、約4mmもスリムに仕上げられている。
5.0インチでありながら、横幅が非常に抑えられており、持ちやすい
実利用を考えると、ユーザーとしてはボディの剛性やタッチの誤操作などが気になるところだ。剛性については、他機種と同等レベルを確保しており、まったく問題ないという。額縁がほとんどない構造のため、片手で持ったときなどに、親指の付け根の部分などで誤ってタッチしてしまいそうに見えるが、従来の三辺狭額縁によるEDGESTデザインで培われたノウハウが活かされており、筆者が試した範囲でも誤ってタッチ操作をしてしまうことはなかった。指の長さや手の大きさにもよるが、タッチの誤操作は杞憂と考えて良さそうだ。
背面は緩やかにラウンドした形状を採用している。背面カバーには細かいディンプル加工が施されており、グリップ性向上に寄与。さらに背面カバーは着脱が可能で、ソフトバンクのSoftBank SELECTIONからも豊富なオプション類が販売される予定だ。電池は固定式で、2040mAhの容量を持つ。AQUOS Xx 304SHなど、最新のハイエンドモデルと比較すると、電池容量がやや少ない印象を持つかもしれないが、ミッドレンジのモデルとしては十分な容量であり、シャープ製スマートフォンでおなじみの『エコ技』により、省電力をサポートしている。
なめらかにラウンドしており、グリップもしやすい背面
ディスプレイの下側には120万画素のインカメラ、LED、照度センサーなどが内蔵されている。シャープでは三辺狭額縁のEDGESTデザインのスマートフォンからインカメラがディスプレイの下側に配置するレイアウトを採用しているが、自撮り(セルフィー)をするときは、本体の天地を逆にして持つことで、違和感なく撮影することができる。
また、フレームレス構造を実現するにあたり、レシーバー(受話口)は一般的なスピーカーではなく、パネル面の振動で音声を伝える「ダイレクトウェーブレシーバー」を採用している。本体を耳に当てたとき、耳の位置にレシーバーを合わせる必要がないうえ、騒がしいところでは耳にパネルをぴったりと押しつけることで、相手の声をハッキリと聞き取ることができる。
インカメラや照度センサーなどは下部に集中
harman/kardonのオーディオ技術を採用
フレームレスデザインが印象的なAQUOS CRYSTALだが、もうひとつの特長として挙げられるのが「クリスタルサウンド」と呼ばれるオーディオの強化だ。
まず、AQUOS CRYSTALには米国に本拠を置く世界的なオーディオブランドのひとつであるHarman社が開発した独自の音声復元技術「Clari-Fi」が採用されている。
一般的にスマートフォンで再生される音楽は、MP3形式などの圧縮された音楽データを利用している。こうした音楽データは、元の楽曲のデータを圧縮することでデータ容量を少なくしているが、その半面、圧縮時に高音域などが失われてしまう。Clari-Fiではこの失われた音楽データを復元する技術で、クリアな音質で音楽を楽しむことができる。ミュージックプレーヤーで音楽再生時には、「Clari-Fiビジュアライザー」により、その効果を視覚的に確認することも可能だ。
ちなみに、Clari-FiはイヤホンやBluetoothヘッドホンと接続しているときに有効に設定できるが、ミュージックプレーヤーで音楽を再生するときだけでなく、YouTubeなどの動画再生時にも効果がある。また、Harman社独自のデジタル信号処理(DSP)技術である「LiveStage」を組み合わせ、音に拡がりを持たせた臨場感のあるサウンドを楽しむことも可能だ。
音源の圧縮で失われた情報を復元する「Clari-Fi」で音楽も高音質に
YouTubeなどの動画でもClari-Fiは有効に
そして、今回、国内向けに発売されるAQUOS CRYSTALには、harman/kardonのBluetoothスピーカーがセットで販売される。米国での実売価格は約300ドル程度なので、かなりお買い得感のあるパッケージということになりそうだ。実際に音楽も再生してみたが、かなり迫力のあるサウンドで、自宅などで音楽やコンテンツを楽しむときの環境がグッと向上することになる。
harman/kardon製のBluetoothスピーカーが同梱される
最新のカメラ機能を継承
今回発売されるAQUOS CRYSTALは、ソフトバンクと米Sprint、シャープの共同開発により、日米の両市場にほぼ同じモデルが展開される。そのため、ソフトバンクのハイエンドモデルであるAQUOS Xx 304SHなどと比較すると、スペックはやや控えめの印象だ。たとえば、AQUOS CRYSTALには、国内向けのスマートフォンで定番とされる日本仕様の「おサイフケータイ」「ワンセグ」「赤外線通信」といった機能が搭載されていない。ただ、スマートフォンの普及が進む中、こうした機能を必要としないユーザーも存在し、そういったユーザーのニーズに応えられるモデルという捉え方もできる。
ちなみに、ソフトバンクでは約5.5インチのフルHD対応液晶ディスプレイを同じフレームレス構造で搭載したプレミアムモデル「AQUOS CRYSTAL X 」を同時に発表しており、こちらのモデルにはおサイフケータイやワンセグが搭載される。2014年12月以降の発売が予定されているので、日本仕様を求めるユーザーはこれを待ってみるのも手だ。
ハイエンドモデルに比べ、スペックがやや控えめとはいうものの、アプリや機能面では最新の仕様が採用されている。
まず、カメラは背面に800万画素、前面に120万画素のいずれも裏面照射型CMOSイメージセンサーを採用しており、背面カメラでの撮影についてはフレームレスの特長を活かし、ユーザーが見ているシーンを切り取るようなイメージで撮影ができる。背面カメラの隣には、従来モデルよりも大幅に輝度がアップしたLEDフラッシュ(モバイルライト)を搭載しており、液晶パネルと同じく自然な色調を再現できるLEDにより、人物なども自然な印象で、明るく撮影することが可能だ。
裏面照射型CMOSイメージセンサーを採用したカメラ。LEDフラッシュは人物を自然な色合いで撮れるようになっている
まるで風景を切り取るかのような、フレームレスならではの撮影感覚
撮影機能については上位モデルの仕様を継承しており、暗いところでの撮影に強い「Night Catch II」、撮影シーンに合わせたガイドやメッセージが表示される「フレーミングアドバイザー」、シャッターを押している間、連続で最大999枚の写真が撮影できる「押しっぱなし連写」などが搭載されている。なかでもおすすめはシャープの2014年夏モデルで高い評価を得たフレーミングアドバイザーで、カメラを起動し、構えたとき、風景や料理、人物など、被写体を自動的に認識し、それぞれのシーンに合わせたガイドやフレームをファインダー内に表示することで、初心者でも簡単に構図バランスの取れた写真を撮影できるようにしている。
また、同じく最新のシャープ製スマートフォンで評価を得ている「検索ファインダー」「翻訳ファインダー」「かざして翻訳」が搭載されており、翻訳ファインダーについては英語を日本語に翻訳し、かざして翻訳については中国語や韓国語を日本語に翻訳できる。こうしたカメラを利用した機能は、「カメラ活用アプリ」として追加することができ、シャープのメーカーサイトである「SHSHOW」からダウンロードすることができる。
フレームレスを活かした機能と操作性
ところで、スマートフォンを使っていると、「このページを保存しておきたい」「ここに書いてあることをメモしたい」といったシーンに会うことがある。それがWebページであればブックマークに保存はできるが、「いま見ている内容」をそのまま保存できるとは限らない。そうしたとき、Androidスマートフォンでは画面キャプチャ(スクリーンショット)を撮ることができるが、通常は2つのボタンを同時に押す操作が必要なため、うまく操作できなかったり、操作に失敗して、他の画面に切り替わってしまうこともある。
そこで、AQUOS CRYSTALでは画面のフチをなぞるだけで、簡単に表示中の画面をクリップできる「Clip Now」という機能が搭載されている。購入時の設定はOFFだが、設定画面でONに切り替えておけば、画面上部のフチを左右になぞるだけで、簡単に画面を取り込んで、保存することが可能だ。一般的な画面キャプチャと違い、マナーモードに設定しておけば、音も出ないため、周囲を気にすることなく、使うことができる。
画面上部のフチをなぞるだけでスクリーンショットを撮影。操作感は非常に軽快でクセになる
Clip Nowで保存した画面は、Clip Nowの専用ビューワーからすぐに確認することができるうえ、画面上部の通知領域や画面最下段のナビゲーションバー(ホームキーなどのエリア)はあらかじめカットされているため、友だちに送信したりするときもトリミングする必要がない。しかもWebページについては、URLがいっしょに保存され、そこからWebページにアクセスすることができる。
気になるWebページを見つけたときをはじめ、ゲームのハイスコア画面、乗り換え案内やナビゲーションの案内画面などに積極的に使っていきたい。Webページも、オンラインショッピングの決済画面、レストランやイベントの予約完了画面など、オフラインでも確認できるように残しておきたい画面を取り込みたいときには、ブックマークするよりもClip Nowの方が使いやすいだろう。
後で画面を見返すのに便利なClip Nowのビューア
Webブラウザーを撮影すると、タイトルとURLも保存され、直接Webサイトに飛ぶこともできる
使いやすさという面については、これまでのシャープ製スマートフォンで培われてきたものがAQUOS CRYSTALにもしっかりと継承されている。たとえば、ホームアプリはシャープ製端末でおなじみの「Feel UX」がプリセットされており、2014年夏モデル同様、アプリシートとデスクトップシートの2画面で構成される。よく使うアプリを画面下段に配置できるドック機能、縦スクロールのページの並べ替え、ホームキーをタップしたときに戻るシートを設定できるホームポジション設定など、従来モデル同様の使いやすい機能が継承されているほか、新たにウェルカムシートに表示する不在着信などの新着情報に、相手の名前を表示できるようにするなど、新しい機能も追加されている。
また、約5.0インチという大画面を誰でもストレスなく使えるように、2014年夏モデルのAQUOS Xx 304SHでも採用された「ワンハンドアシスト(画面縮小モード)」と「クイックランチャー」が継承されている。ワンハンドアシストは、ホームキーから斜め方向にドラッグすると、画面表示を一時的に縮小表示するもので、もう一度、同じ操作をすれば、すぐに元の状態に戻すことができる。クイックランチャーはナビゲーションバーのアプリ使用履歴キーをタップすると表示できるもので、よく使うアプリや最近使ったアプリ、ミニアプリをすぐに起動できる。
画面を右ないし左に縮小して配置、片手操作で使いやすくできる画面縮小モード
クイックランチャーは、画面下部に表示されるので片手持ちの際に親指で操作しやすい配置
この他にも画面をなぞってON、振ってOFFにできる「Sweep ON/Shake OFF」、手に持っている間は画面をOFFにせず、机などの水平な場所に置くと画面をOFFにできる「Bright Keep」、表示している画面に手書きメモを書き加えて、画像として保存できる「「書(かく)」メモ」、子どもなどに映像を見せるとき、タッチ操作を一時的に無効にできる「チャイルドロック」など、これまでのシャープ製スマートフォンで好評を得てきた実用的な機能はしっかりと継承されている。
フレームレスで世界を切り取るAQUOS CRYSTALは買い!
現在、国内の市場ではスマートフォンが半分近くまで普及し、端末もプラットフォームの熟成と共に、かなり完成度を高めてきた。今後、さらに幅広いユーザーのニーズに応えていくには、今までにない存在感を持つモデル、新しい世界観を演出できるモデルが必要だと言われている。
今回発表されたAQUOS CRYSTALは、約5.0インチという大画面の液晶ディスプレイを、フレームレス構造という斬新なデザインで仕上げることにより、これまでのスマートフォンとは明らかに一線を画した存在感を演出することに成功したモデルだ。まるでディスプレイだけを持ち歩くような感覚のデザインは、スマートフォンを使うことに改めてワクワクしてしまうほどのインパクトを持つ。そして、国内で磨かれてきたシャープ製スマートフォンのノウハウを米国市場に展開することも日本のユーザーとして期待感の持てる要素のひとつだ。フレームレスで新しいスマートフォンの世界観を体験させてくれるAQUOS CRYSTALをぜひ多くの人に試して欲しい。
「画面だけを持つ」感覚を是非店頭で味わってみよう
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執筆: 法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話やスマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。主な著書は「できるWindows 8.1」をはじめ、「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-01F 基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるタブレット超入門 Android 4対応」、「できるポケット au Androidスマートフォン 基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるWindowsタブレット Windows 8.1 Update対応」など、数多く執筆。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。ホームページはこちら。