「ブロードバンド元年」からの5年。
「ブロードバンド 2.0」への5年



 Broadband Watchが創刊したのは2001年7月11日(正式創刊は7月16日)で、今から5年前のこと。わずか5年ではありますが、ブロードバンドを取り巻く環境は大きく変化しました。


Yahoo! BB参入でブロードバンド競争が激化した年に創刊

「Yahoo! BB」発表時のソフトバンク孫正義社長
 Broadband Watchの始まった2001年は、Yahoo! BBの登場で日本のブロードバンドに大きな変化の起きた年です。下り8MbpsのADSLを月額2,280円という低価格でADSLを提供したYahoo! BBに対し、NTT東西やイー・アクセスなどの競合他社も次々に高速化を実施。ここからADSLの高速化に火がつきました。

 理論上の通信速度こそ1年にも満たない間隔でどんどん向上していったADSLですが、実際には理論上の速度と導入した回線の速度が大きく違うということも。そのためか回線速度に対する興味や記事へのニュースは非常に強く、高速化のADSLサービスやADSLサービスの導入レポートは大きなアクセスを集めました。

 しかし、2004年に40Mbps超のADSLサービスが登場した頃には、ADSLの新サービスはそれほどにアクセスを集めなくなりました。理論値ほどスピードが出ないことに加えて、実際に高速な回線を導入しても、それだけの速さを必要とするコンテンツもなく、「数Mbps程度の通信速度で十分」という認識が広がりつつあったのでしょう。2005年には、回線系の記事が年間のニュースアクセスランキングに1つも入らなくなったほどです。

 もう1つ、読者の興味の対象が変わっていったのが「ルータ」というジャンル。当初はルータの新製品が出るたびにアクセスを集めていましたが、2003年に登場したIEEE 802.11gで無線LANの高速化も一段落。さらにIP電話サービスによってルータ搭載モデムのレンタル提供が始まり、単なるルータの新製品というだけではそれほど注目を集めなくなりました。そもそも、ルータ自体がインターネット回線というインフラのための機器であり、AV機器などと違って存在感や機能の差異なども多くはなく、一度導入してしまうとさほど気にならない製品でもあるのでしょう。


ブロードバンドの主役は回線からコンテンツ・サービスへ

NTT東西がフレッツユーザー向けに提供を開始したIP電話対応機器
 こうして回線やルータが実用的に十二分な速度になるとともに、インフラ面での関心は薄まりつつありました。その一方で、2003年後半からはブロードバンドならではのコンテンツやサービスが登場し始めました。

 その1つが、050番号が割り当てられたIP電話。当初はIP電話からの発信しかできず、携帯電話・PHSとの発着信も不可という限定的な機能でしたが、2003年の終わりにはこれらもほぼ対応し、110・119といった緊急通報や0120などの特別番号を除けばほとんどの電話番号と発着信できるように。さらに早くからBBフォンを提供していたYahoo! BBも050に対応したことで050番号の普及は一気に進み、2005年には050番号の取得数が1,000万件を超えるほどになりました。

 同時期、大きくは目立たないものの地道に人気を集めていたブロードバンドコンテンツが「韓国ドラマ」。ドラマ「冬のソナタ」の大ヒットで巻き起こった韓流ブームはブロードバンドの世界にも大きな影響を与えました。男性中心のWatch読者層では比較的関心は薄い韓国ドラマではありますが、動画配信サービスでは「冬のソナタ」に続けとばかりに、次々に韓国ドラマがネット上で配信されていきました。


動画や音楽などリッチコンテンツが充実した2005年

日本での「iTunes Music Store」開始に際して来日したスティーブ・ジョブズCEO
 Yahoo! BBの登場により、ブロードバンド価格競争や速度競争が始まった2001年をブロードバンド元年とするなら、2005年は「ブロードバンドコンテンツ元年」とも言える年かもしれません。音楽配信ではアップルコンピュータの「iTunes Music Store(現iTunes Store)」がついに日本に上陸。サービス開始から1週間で100万ダウンロードを超えるなど人気を集め、国内の競合サービスも価格改定やライセンスの見直しを行なうなど、音楽配信市場が活性化し始めました。

 動画の分野でも、USENの「GyaO」がこの年にスタート。「すべて無料」というわかりやすいコンセプトに加え、話題の映画や人気のアニメを続々配信したことで注目を集め、ユーザー数は4月のサービス開始から1年も経たずに500万を突破。同年末にはYahoo! JAPANも「Yahoo!動画」で無料コンテンツを大幅に拡充するなど、ネットで楽しめる動画コンテンツが大幅に拡充されました。

 ブロードバンドが着実に普及し、ブロードバンドならではのコンテンツも増える中で、ブロードバンドの利用スタイルも着実に変化が現われ始めました。その代表例が「Web 2.0」とも呼ばれる、ブログやSNSの普及。ブログの登録者数は2006年3月末で登録者数が868万に達した一方、SNS最大手のmixiは会員数が600万を突破。これまでメールが中心だった知人同士のコミュニーションが中心だった世の中に、自ら情報発信をするツールが市民権を得たことで、インターネット上のメディアの在り方にも変化が生まれつつあります。

 もう1つ注目したいのは、家電やゲームのブロードバンド対応。外出先から自宅のテレビや録画番組が見られるソニーの「ロケーションフリー」は大ヒットとなり、同様の製品もさまざまな会社から発売されました。また、ゲーム機でもニンテンドーDSやPSPといった携帯電話が標準で無線LANを搭載しただけでなく、「次世代ゲーム機」と総称されるXbox 360、PS3、Wiiもすべてブロードバンド対応するなど、ゲーム機もネットワーク対応を前提とした方向に進みつつあります。


ブロードバンドの高速化はまだまだ止まらない

国内初の高速PLCアダプタ「BL-PA100」
 2006年で10周年を迎えたImpress Watchですが、実は2006年で10周年を迎えるのはImpress Watchだけではありません。Yahoo! JAPAN、OCN、BIGLOBEも今年が10周年で、@niftyも1996年からインターネット接続サービスを開始。それまでもインターネット自体は存在しましたが、これら大手ISPやポータルが登場した1996年からの10年間で、日本のインターネットは本格化したと言えます。

 しかし、Yahoo! BBのADSL参入が2001年であることを考えると、インターネットが本格化した10年のうち、その半分はブロードバンドが本格化した歴史でもあります。ISDNで64kbpsの接続がやっとだったナローバンド時代が、たった5年で100Mbpsも当たり前という環境まで変化したことを考えると、通信業界での5年間は、それだけの大きな変化が起きるに十分な時間なのでしょう。

 2006年になっても、ブロードバンドの進化はまだまだ止まりません。12月には国内で初めての高速PLCアダプタが登場。理論値190Mbpsという高速性に加えて、コンセントを使って手軽に宅内ネットワークを構築できる手軽さも魅力です。

 高速化という面では、実効速度100Mbpsを目指す無線LANの高速化規格「IEEE 802.11n」が2007年にも正式に規格化される予定。これを受けて国内でも、100Mbps超の無線LAN実現に向けた周波数拡大が検討されています。


次の5年でブロードバンドが進むべき姿とは

 モバイルのブロードバンド化も進んでいます。イー・モバイルはHSDPAによるデータ通信サービスを2007年に開始予定。PHSのウィルコムも既存技術の高速化に加えて次世代PHSという技術も検討を進めています。モバイルWiMAXも、導入に向けた周波数の検討が進められており、外出先から好きなときにブロードバンドが利用できる「モバイルブロードバンド」も、あと5年もすれば当たり前の存在になってしまうのかも。

 ブロードバンドの定義と言えば、「常時接続」「高速」という2つのキーワードが挙げられます。しかし、これまではどちらかというといつも気軽にネットを利用できるという「常時接続」の要素ばかりが大きく、ブロードバンドの高速性をフルに活かしたコンテンツやサービスはそれほど大きな存在感を示していませんでした。それは理論値こそ高速なものの、実際のスピードは環境によって大きく左右されているADSLがメインだったこともあるでしょう。

 しかし、今ではADSLが純減に転じ、FTTHの純増数がADSLを大きく上回るようになりました。さらにそうした高速回線を活かすための無線LAN技術や高速PLCという技術も登場。モバイルのブロードバンド化も始まりつつあります。自宅でも外出先でも会社でもまったく変わらない環境で、ネットワークの利便性を享受できるユビキタス環境の実現こそ、次にブロードバンドが目指す「ブロードバンド 2.0」とでも呼ぶべき姿なのかもしれません。

(Broadband Watch デスク 甲斐 祐樹)



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