AV Watchが創刊したのは2001年1月なので、創刊から約6年が経過したことになる。10周年を迎えた「INTERNET Watch/PC
Watch」の半分程度の歴史しかないが、この間にAV業界もあらゆる意味でアナログからデジタルに大きく動いたように思う。
そもそも、PC Watchの編集部に在籍していた2000年3月に「プレイステーション 2」が発売され、「PC Watchとしてはジャンル違いかも?」と思いながら、DVDプレーヤーとしての機能をレビューしたのが、漠然と「AV情報を紹介する媒体が必要になるなぁ」という想いを抱きはじめたキッカケとなった。
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私のTV録画ライフを劇的に変え、AV
Watch創刊のキッカケとなった「Clip-On」 |
その漠然とした想いを、「AV情報を紹介する媒体立ち上げる」と決意させてくれたのは、2000年8月にソニーが発売した家庭用HDDビデオレコーダ「Clip-On」だった。
Clip-Onが発表された時には、純粋にビデオレコーダで、パソコンともつながらないので、PC Watchで取り上げることはできなかった。しかし、実際に購入して使ってみると、「テレビ録画に新時代がやってくる!」という衝撃を受けるほどの便利さだった。
「これが紹介できないなんて悔しすぎる」と、残念でしかたなかった。また時を同じくして、「プレイステーション 2」の発売により、北米よりかなり遅れていた日本のDVDビデオ市場が立ち上がり始め、順調にソフトがリリースされるようになった。
しかし、日本のDVD情報は少なく、「DTS音声が入っているソフト」、「サラウンド感が楽しめるソフト」、「スクイーズ収録されたソフト」など、「DVDだからこそ高音質で高画質のソフトを手に入れたい」という願いを叶えてくれる情報が、ほとんど無かった。
当時、インターネット上の日本のAV系のニュースサイトも、AV雑誌のおまけとして、運営しているサイトがあるくらいで、情報としてはまったく不足していた。そんな情報に飢えて悶々とするなか、「なければ作ればいい!」という結論に至って、創刊したのが「AV
Watch」だった。
そこで、AV Watchの柱に据えたのが、現在でも続いているDVD情報を掲載する「DVD発売日一覧」。自分が欲しい情報を、シンプルに見せることにだけ徹したスタイルを一から作って、今では4万以上のタイトルが登録されている。
その後、フォーマットが増えるたびに、「UMDビデオ発売日一覧」、「Blu-ray/HD
DVD発売日一覧」と追加しているが、「自分が欲しい情報を載せる」というコンセプトは変えていない。
ただAV Watchを創刊した当初は、日本にはWebでこういった情報を掲載するというスタイルがほとんどなく、非常に著作権管理が厳しい業界ということもあって、ジャケット写真1枚掲載するのにも、紙媒体とは違う特別な規約があったり、社長印を押印した申請書が必要だったりと苦労した。今でもまだ「Webに掲載する」ことに制限も多々あるが、初期に比べれば「Webに掲載する」ということ自体は理解されるようになった。
● TV録画はランダムアクセスの時代へ
そういった創刊時の想いもあり、AV Watchでは既存のAV誌のように「音質」や「画質」のあくなき追求だけでなく、「デジタルによって、利便性が高まる」ことに重きをおいて、取り上げてきた。
現在では、音声も映像もデジタル化され、10年前に比べれば圧倒的に便利に楽しめるようにあった。「AV」というジャンルは非常に幅広いため、今回はこの10年で大きく変わり、AV
Watchとしても注目し続けてきた、テレビ録画機を振り返って、“初”という括りで年表を作ってみた。
年表を見るとここ5年で、テレビ録画が、VHSやβのテープ時代から、HDDや、DVD、Blu-ray、HD DVDといったディスクメディア時代に確実に切り替わってきたことがわかる。
ディスクメディアの最大のメリットは、ランダムアクセスができること。頭出しが一瞬ででき、見終わった後に巻き戻しも不要。実際に使ってみると、その便利さは圧倒的。登場当初はDVDレコーダは20万円を超える高額商品だったが、松下が2001年5月にDVD-RAM/Rレコーダ「DMR-E20」を135,000円で発売し、その後、他社も価格を下げて、低価格が進み、一般の人が普通に購入する商品になったのは、ご存知のとおりだ。
ただ、記録型DVDには、DVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RW、DVD-RAMなど規格が分裂し、エンドユーザーにとっては、非常に面倒な状態に陥った。しかし、結局は、ハードウェア側で「全部対応する」という方向になり、あまり問題にならなくなってしまった。
DVDの再生機が出たのが、ちょうど10年前。そして、今年の年末から第2世代Blu-rayとHD DVDが登場する。Blu-ray、HD
DVDの両陣営で規格の統合を目指した時期もあったが、結局のところ、両方が市場に登場することになってしまった。
Blu-rayとHD DVDも普及が進めば、もしかするとDVDのように「両方対応しているのが当たり前」という時代が到来するかもしれない。
● デジタル放送で、「テレビ録画国民」は死滅するのか?
これまでAV Watchをやってきた実感としては、日本人ほど「テレビを録画する」ということが好きな国民は、世界中にいないかもしれないということ。ただ今のデジタル放送のコピーワンスでは、今までアナログ放送で享受してきた柔軟で便利な使い勝手がなくなってしまうことも確か。今後も日本人が「テレビ録画国民」であるために、コピーワンスの見直しも必須だ。
情報通信審議会では、出力保護付きでコピー制限無し(EPN運用)の導入を前提に検討を進めるよう求めているが、実際に導入されるかわからない。そもそも、EPN運用が今のコピーワンスより便利になるという保証も無い状態だ。
今まではデジタル放送を録画して活用していたのは限られたマニアだったので、その不満が一般の人には理解できなかっただろう。しかし今後、普通の人が普通に使うだけで、現行のデジタル放送では「不便だぞ。おかしいぞ」という声が多くなっていくことは間違いない。そうなってくれば、「普通の人が普通に使える」ように改善されるのではないかと期待している。
● AV
Watchの10年後を想像して
10周年(AV Watchとしては6周年)記念として、ともに発展したテレビ録画機について振り返ってみた。しかし、AV WatchとしてはiPodとiTuens
Music Storeにより革命的に変わったオーディオ分野や、現在ハイビジョン化が進むビデオカメラ、プラズマや液晶などの薄型テレビなど、数多くの製品を取り上げて、その進歩を見てきた。それらは15周年、20周年を迎えられたときに、改めて振り返りたいと思う。
AV Watchが10年後、どうなっているか? それを想像すると、どんなに時代が進もうと、人類が誕生したときからあったであろう「映像を観る」、「音楽を聴く」という人間の根源的な楽しみがなくなることは無いだろう。だから、AV
Watchが取り上げるべきことがなくなることはないと考えている。しかし、ただそれがどんな形になっているかは、想像することのは難しい。
CDが誕生した24年前、VHSやβが誕生した30年前から、現在のiPodや、Blu-ray、HD DVDへの進化を遂げたように、10年後には「映像を観る」、「音楽を聴く」ということの根本は変わらなくても、そこにある技術はまったく新しいものになっているだろう。
今後もAV Watchは、自分が面白いと思ったことを、読者にも面白いと思ってもらえるように伝えるというスタンスで、「映像を観る」、「音楽を聴く」最新の情報を伝えていきたい。
(AV Watch チーフ 古川 敦) |