● Windows 95の発売イベントがきっかけ
「PC Watch」が創刊するときの、ルーツの1つはメールマガジンであった「Internet Watch」だが、もう1つのルーツは「DOS/V Power Report」誌の編集部でやっていた「発表会速報」というWeb記事だった。
このWebは、「DOS/V Power Report」のニュース欄を担当していた私が中心に更新していた。最初の記事が'95年9月の「IBM PalmTop PC110」でデジカメがまだ普及していなかったので、銀塩写真をスキャンして載せた覚えがある。
このWebのピークは、'95年11月のWindows 95の発売日レポートで、秋葉原を中心に前日/当日とも、そこそこの分量のレポートを公開している。秋葉原の分は、DVカメラの静止画撮影モードを活用していた。
思えば、Windows 95の発売では、NEC、富士通、東芝などの各メーカーも営業部隊を投入し、秋葉原全体がお祭り騒ぎの状態だった。そのときは、パソコンはエレクトロニクス業界の中心に位置しており、各メーカーの力の入れ方も現在とは大きく異なっていた。
また、Windows 95自身も、TCP/IPを標準でサポートしたことにより、「この製品の登場によって、世界が変わる」という思いもあった。
今から振り返っても大きなステップだったと思う
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Windows 95発売当日の熱気を速報 |
● WatchサーバーはNT 3.51でスタート
その後、Watchの編集部に移り、PC WatchはIntenret Watchの週末付録として、メールマガジンで始まった。しかし、ハードウェアものが多いPCの分野では、Webでやった方が良いだろうという当時のリーダーである山下憲治氏の判断で、Webサイトとして再出発することになった。
この当時のWatchサーバーは手作りで、安く売っていた東芝製のデスクトップPC(IntelのOEM製品だった)を買ってきて、SCSI HDDを4発入れ、Windows NT 3.51で動いていた。
この件が縁となって、Windows NT 4.0発表会のプロモーションビデオには山下氏が登場し、NTの安定性を語っていた。ただし、ビデオのナレーションは、「このたった1台の小さなPCが、信じられないことに、1カ月に百万ヒットを支えているのです」というもので、聞いていて苦笑せざるをえなかった。
ちなみに、このサーバーは、単発のPCとしては結構安定していたが、それでも深夜にスタックしてしまい、お叱りのメールを受けたり、リセットしに出社したりしたこともある。
PC Watchのサイトが更新を始めたのは、1996年5月6日からだが、ゴールデンウィークの休暇を利用して記事を準備したので、日付的には4月16日までさかのぼって記事が掲載されている。
いまなら、この日を創刊にしてしまえばよかったと思うのだが、なんとなく紙媒体の意識を引きずっていて、正式創刊は7月22日に改めて行なっている。この時には、マイクロソフトの古川元会長や、慶應義塾大学の村井先生に祝辞をいただいている。
古川会長の記事は私が担当したが、会食の場でお話いただいたことを、談話形式でまとめ校正をしていただいたものだ。
また、メルコの奥川氏、アイ・オーの片桐氏は、いずれもニュースソースとして重要な存在だった両メーカーのご担当者に無理を言ってコメントをお願いした。
● 影が薄くなっていくWindows
'98年7月にWindows 98が登場したときは、やはり深夜発売が行なわれた。
さすがにWindows 95のときほどではなかったが、秋葉原のラオックス前では「タッチおじさん」や「バザールでござーる」なども登場し、場を盛り上げていた。
2000年2月18日のWindows 2000や、同じ年の9月22日のWindows Meの深夜販売では、一定の賑わいはあったものの、かつての勢いは感じられなかった。
深夜発売というイベントも、やたらと乱発され10人以下しか集まらない場合すらあり、徐々に下火になっていったのだ。
2001年11月にWindows XPのリテール版が発売された際にも、「全般に寒かった秋葉原」などの見出しに見られるように、盛り上がりは限定されたものになった。
これは、10月にWindows XPのOEM版が先行発売されていたことによる影響も大きく、このあたりにも、統一してお祭り騒ぎを繰り広げようという意欲が薄れていることを感じたものだ。
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Windows 98の深夜発売当日 |
タッチおじさん |
バザールでござーる |
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Windows 2000発売当日 |
Windows Me発売当日 |
Windows XPのリテール版発売当日 |
● VistaはPCユーザーを振り返らせることができるか
Windows XPが君臨した5年間は、ある意味安定した時代でもあった。
PCというものの形ははっきりしてしまい、思いがけなかったアイデアの投入や新規の参入は少なくなり、業界全体の寡占化も進んでいった気がする。
一方で、PCは道具としては非常に安定した存在となっており、価格もかつてないほど下がっている。
PCは何かをもたらしてくれる夢の機械から普通の道具へと変わっていったのだ。
Vistaの登場を直前に控えながら、かつてのような次世代のOSを待望する、という雰囲気は感じられない。
来年に登場するVistaは、このような冷たい視線に打ち勝って、思いもかけなかった夢を見せてくれるのだろうか。可能性は高くないとは思う一方で、ぜひ、そうであって欲しいとも思っている。
(PC Watch 編集長 伊達浩二) |