Watchシリーズが創刊されて10年だという。パソコンやインターネットなど、Watchシリーズが関わってきた業界は、凄まじいスピードで展開してきた。10周年記念サイトの他の記事を見てもわかるように、「えっ? 10年前って、○○だったの?」と考えさせられることも少なくない。
この10年、業界で何が起きたのかということはバックナンバーでも読めるし、他の方々も紹介しているので、今回はニュースや記事に書かれていない話をいくつか紹介しよう。
■ Watchシリーズとできるシリーズの関係
筆者はPC Watchやケータイ Watch Broadband Watchなどに寄稿させていただいたが、その一方で同じインプレスグループの書籍「できるシリーズ」を書かせていただいている。片やインターネット上で展開されるパワーユーザー向けの媒体、片やパソコン入門書の定番シリーズ。どちらもパソコン関連の題材を扱っているが、「書く」「制作する」という部分においては、表現方法や方向性がまったく異なるメディアだ。
しかし、この2つのシリーズの誕生と成功には、どちらも同じ1人のスタッフが深く関わっている。古くからWatchシリーズを愛読している人なら、ご存知だろうが、故・山下憲治氏のことだ。山下氏はできるシリーズのオリジナルコンセプトを生み出し、その後、Internet
Watchの創刊に携わり、PC Watchの編集長などを歴任した。
筆者はPC Watchで連載中、山下氏に声を掛けられ、できるシリーズの執筆に参加したが、そのご縁が今でも続き、50冊以上のできるシリーズを執筆する機会をいただいた。山下氏は2000年7月、志半ばに、この世を去ってしまったが、この2つのメディアはしっかりと受け継がれ、読者にもきちんと評価をいただいている。この先、10年、20年、50年、100年と、形を変えながらでも一人でも多くの人の役に立つメディアであり続けて欲しい。
■ 手作り感覚のニュース媒体
Internet Watchは元々、メールマガジンとして創刊されたが、PC Watchは創刊当時からWebによるニュース媒体という体裁を取ってきた。創刊当時からスタッフだった伊達浩二氏(現PC
Watch編集長)と工藤ひろえ氏(現ケータイ Watch編集長)とは、元々、DOS/V PowerReportでいっしょに仕事をしてきたこともあり、「じゃあ、法林さんも何か原稿を……」とお声掛けいただいた。
ただ、Web媒体のニュースメディア向けの原稿というのは前例がなかったため、実は当初、イベントレポートの原稿を書く際、ほぼWebページの完成形に近い状態で渡していた。雑誌媒体でページのラフコンテを作るように、筆者は自分の原稿にHTMLタグを書き込み、デジタルカメラの画像も割り当てたファイルを作成していた。当時はスタッフが少なく、少しでも手助けしたかったという気持ちもあったが、自分自身がHTMLを覚えたてで、調子に乗って、HTML化していただけという側面もある。そのため、古い記事のHTMLのソースを見ると、自分の書いたものが残っていたりして、うれしいような恥ずかしいような……。その後、「HTML化は編集部でやりますから……」と言われたため、現在はテキストファイルの原稿を渡しているが、その結果、筆者のHTMLの知識は当時で停止したままだ。
この他にもWatchが稼働するサーバが編集部の机の上にさりげなく置かれていたり、サーバが止まったとき、夜中に誰かがリブートに来たりと、創刊当時は手作り感覚のニュース媒体という雰囲気が楽しくもあり、新鮮だった。
■ Watchシリーズはデジタルカメラから
創刊当時、現在のようにデジタルカメラが普及していなかったため、Watchシリーズに原稿を書くには、まず、デジタルカメラを買うところから始めなければならなかった。雑誌ではカメラマンの方が写真を撮るのだが、Web媒体は基本的に記事を書くスタッフやライターが自前で写真を撮っていたのだ。
最初に購入したデジタルカメラは、カシオ計算機製「QV-10A」だった。ご多分に漏れず……というか、当時は大半の関係者がQV-10を使っていた。その後、何台も(何十台も?)デジタルカメラを買い換え続けたが、取材やブツ撮りでよく利用したのがオリンパスの「C-1400L」(1997年10月発売)や「C-2500L」(1999年8月発売)あたりだ。伊達編集長をはじめ、連載陣の西川和久氏や山田久美夫氏といった詳しい人が身近にいたため、デジタルカメラ選びや撮影方法にはよくアドバイスをいただいた。的確なアドバイスによって、機材はいいモノを選ぶことができたが、筆者自身のカメラの腕前は10年前と変わっていないような……(笑)。
■ 刺激的だった「リレー連載 物欲道修行記」
PC Watchに書いた原稿の中で、もっとも印象に残っているものと言えば、「リレー連載
物欲道修行記」をおいて、他にない。物欲番長のスタパ齋藤氏をはじめ、豪華著者陣と毎週、自腹で購入したモノを勝手気ままにレポートするというリレー連載だ。
今さらながら読み返してみると、内容的にもかなり砕けていて、妙に恥ずかしかったりするが、当時はまだ手探りでいろんなスタイルの記事を書いていた頃で、自由な雰囲気で記事を書くことができた。普段、自分が取り上げないジャンルの製品の原稿を書くのも面白かったし、他のライターさんが変わったものを選んでいたりすると、次は負けじとさらに変わったものを選ぼうとしたり、結構、刺激を受けたものだ。
■ 「Mobile Central」から「ケータイ Watch」へ
PC Watchに寄稿していた1999年、「モバイルや携帯電話を題材にした媒体を始めたい」という話があり、早速、連載を書かせてもらうことになった。「Mobile
Central」の創刊だ。
しかし、創刊からわずか半年後、誌名を「ケータイ Watch」に変更することになる。誌名変更に至った経緯はいろいろあったようだが、現Impress
Watch取締役の小川亨氏や工藤編集長から「なんか、ケータイの記事が人気なんで、やっぱり、『ケータイ Watch』にした方がいいかな」と相談されたのを記憶している。やはり、この当時から読者の関心は身近なケータイに向いていたのかもしれない。
ケータイ Watchにはスタパ齋藤氏や大和哲氏、筆者などが執筆する連載の他に、『本日の一品』や『いまどきのストラップ』というミニサイズの連載ページがある。なかでも『いまどきのストラップ』はすでに1500回を超える長期連載。よくもこれだけストラップを集めたもんだと感心するが、実は筆者も旅行先や映画館などでストラップを購入したり、コンビニエンスストアでおまけのストラップを見つけてはゲットして、陰ながら協力させていただいている。ちなみに、掲載されたストラップは、読者プレゼントのおまけなどとして使われているそうだ。
■ やせる? ドイツでのCeBIT取材
Watchシリーズでは海外の展示会などに出かけ、レポートを執筆してきた。毎年、春と秋に行なわれていたCOMDEX、6月のCOMPUTEX
Taipei、5月のINTEROPなどが代表的だが、ケータイ Watchではドイツ・ハノーファーで行なわれるCeBITにも数回、出かけた。
世界中の展示会を見たわけではないが、筆者が経験した中で言えば、もっともキツいのがCeBIT。会場内をマイクロバスが走り回るほど広く、各展示館も大きいため、数日、取材を続けていると、確実にやせられるほど、体力を消耗する。筆者もはじめて出かけた年に、数kgのダイエットに成功(?)した。
海外に出かけると、いろいろとハプニングにも出くわすこともある。たとえば、ケータイ Watchチーフの湯野氏とCeBITに行ったとき、原稿を送り終え、2人とも疲れて就寝中、何やら部屋の入り口あたりでカギの音が……。酔っぱらった見ず知らずのガイジンがなぜかカギを開けて、我々の部屋に入ってきて、一悶着なんていう事件があった。
■ 見えないけど、身近な読者の存在
Watchシリーズに原稿を書いてきて、もっとも印象に残っているのは、読者のみなさんの存在だ。これはおべんちゃらでも何でもない。雑誌や書籍といった媒体は、なかなか読者の反応を見たり、聞いたりすることができないが、インターネットに掲載される媒体は「リンク」や「メール」、そして最近なら「トラックバック」という形で、ダイレクトに反応を知ることができる。文章を書く側に取って、これはうれしくもあり、つらくもあり、厳しくもある環境だ。
筆者もPC Watch、ケータイ Watch、Broadband Watchなどで原稿を書いてきた中、何度となく、読者のみなさんからメールなどをいただいたりした。激励や応援のメッセージもあれば、お叱りのメッセージもたくさん頂戴した。筆者は身体の大きさの割に、精神的にタフではないため、読者の皆さんからのメッセージに一喜一憂しながら、次の原稿、その次の原稿と書き続け、気がついたら、10周年を迎えてしまったというのが正直な印象だ。
パソコンに始まり、モデムやISDNなどの通信、PDAやメール端末などのモバイル機器、ADSLにはじまるブロードバンド、そして、現在のケータイと、筆者の興味の対象は少しずつ変化しているが、これからもWatchシリーズで楽しく役立つ記事を提供し続けていきたいと考えている。読者のみなさんもぜひ寛大な愛情を持って、これからもWatchシリーズを暖かく見守り、末永くお付き合いいただきたい。 |
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